★ 死出の森の迷い姫 ★
<オープニング>

 深い森が続いている。
 ここは、どこだろう?
 確か、横断歩道を渡っていたら車が突っ込んできて――。
 僕は、死んだのだろうか?
 分からない。何も分からない。
 ここがどこなのかも、どうしてここにいるのかも、これからどこへ行けばいいのかも。
「肉体を失いし魂よ。貴方は、思い残したことがありますか?」
 突然、声が聞こえた。振り返ったそこにいたのは、死神を思わせる黒いドレスをまとった少女。彼女は、その外見とは裏腹の優しい声で再び問いかけてきた。
「貴方は、思い残したことがありますか?」
「えっと、あの……」
 思い残したことなのかどうかは分からないけれど、お別れの挨拶くらいはしておきたい――ってそれよりも、ここはどこなのか、彼女なら知っているんじゃないだろうか。
 頭の中で考えた事は、しかし彼女には全て筒抜けだったらしい。
「ここは死出の森。肉体を失いし魂が生前の行動を元に新たな道へ旅立つ地」
 彼女は言葉を紡ぎつつ、どこからともなく杖を取り出した。
「未練は迷いを生み、迷いは道を誤らせます。貴方には僅かながら時間を与えましょう。その間に、思い残したことを済ませてくるのです」
 同時に彼の足元に魔法陣が発生し、次第に光を放ち始める。
「待ってください。貴方は――」
「時間が来た時にまた会いましょう。くれぐれも悪しき事を行わぬように……」
 光に包まれる間際に彼が放った質問の答えが返される事はなく――気が付いたときには、青年は銀幕市自然公園に立っていた。
 身体には、傷1つついていなかった。

 それから数時間後、住宅街に夜の静けさを引き裂く叫び声とパトカーのサイレンが響き渡った。


「――で、自宅に戻ったところを驚いた両親に不審者扱いされて警察のお世話になり今に至る、という事ですか」
 翌日。警察官に対策課まで連れて来られた青年から一部始終を聞いた植村は、はぁと1つため息をついた。そりゃ、お通夜の最中に死んだ当人がひょっこり現れたら誰だって驚きますよね、ええ。しかもいつの間にか棺桶の中から遺体が消えていたらしいですし。
 つい先日、行方不明になった御先行夫がそれこそ写真にしたら幽霊除けになるんじゃないかと思われる過去最強クラスの視覚的ムービーハザード状態で発見されたものだから、心霊系の話を聞くとその姿が思い出されて仕方ない。ちなみに画像は一応事件記録としてきちんと保存されてある。見たくもないが。
「植村さん、顔色悪いですよ?」
 思わず顔に出てしまったのか、資料を抱えた職員に気を遣われてしまう始末。何かしましたか、私?
「いや、朝っぱらから黄昏れてないでちょっと見て下さいよ、これ」
 そんな植村を立ち直らせながら、関係者一同の前にとすんと資料を置いた職員。一番上に置かれた文庫本を見て、青年があっと声を上げた。それもそのはず、そこには彼が出会った少女が描かれていたのだから。
「『死出の扉』。ファンタジー長編『月と樹と魔法使い』シリーズの外伝の1つで映画化もされています。先程の話からもしやと思ったのですが、当たりだったようですね」
 そういう事ならばと早速設定資料集を読み込む一同。簡単に説明すると、青年が出会ったのはレンドア姫。作中では死者の魂が最初に行き着く森に住み、魂の質を見抜いてそれぞれの行くべき先へ送り出す仕事を生業としている。その過程で、未練から道に迷う事が無いよう一時的に蘇らせて生前の居場所に帰す場合もあるらしい。
「――ということは、彼女は銀幕市に来た事に気付かないまま本来の仕事をしてしまった、ということですか」
「その可能性が高いと思います。あるいは森ごと実体化したのかもしれません」
 とはいえ、彼女を放っておいたら今後死者が出るたびに騒ぎになりかねない。
「では対策課から依頼を出しましょう。ムービースター絡みの事件ですし、それが筋でしょう」
「僕も一緒に行きます。その方が彼女に会いやすいかもしれないですし」
 青年の申し出に頷いて、植村は依頼文を作り始めた。


『――つきましてはレンドア姫を探しだし、騒ぎになるような事を起こさないように説得して下さい。  対策課』

種別名シナリオ 管理番号680
クリエイター水華 月夜(wwyb6205)
クリエイターコメント こんにちは、水華月夜です。初シナリオをお届けに参りました。初なのにオープニングが一部暴走気味な気もしますけど……。
 きっとあれです。私もタワー・オブ・ホラーでのあの姿にあてられたんだと思います。

 今回の依頼はレンドア姫の捜索と説得です。
 青年も参加しますが一緒に行動するか別行動を取るかは皆様次第です。
 レンドア姫は原作では森から一歩も外に出た事がありませんので、そのあたりが鍵になるかもしれません。

 ちなみにレンドア姫が扱う仮蘇生術(一時的に蘇らせる魔法)は、死後あまり時間の経っていない魂にしか通用しません。そのため幽霊系のムービースターの方が蘇えらされたりする事はないはずです。
 また、あくまで一時的な蘇生なので一定時間が過ぎると青年はあの世へ旅立ってしまいます。

 それでは、皆様のご参加お待ちしています。

参加者
ルークレイル・ブラック(cvxf4223) ムービースター 男 28歳 ギャリック海賊団
王様(cvps2406) ムービースター 男 5歳 皇帝ペンギン
清本 橋三(cspb8275) ムービースター 男 40歳 用心棒
セエレ(cyty8780) ムービースター 女 23歳 ギャリック海賊団
<ノベル>

 依頼を受けてひとまず市役所にやってきたルークレイル・ブラックが見たものは、同じギャリック海賊団の団員、皇帝ペンギンの王様が職員をナンパしつつ、青年と原作資料に目を通している光景だった。
「何か分かったか」
「なんだ、ルークか」
 原作が分かっているなら目を通した方がいいだろうと設定資料集を読んでいた王様は、こういうのはむしろあんた向きだろうとばかりに資料を突き出しつつ応じた。
「まあ、大体は読めば分かるが、姫は物心付いた時から魂の番人として過ごしてきたそうだ。仕事と言うよりは役割、と言った所だな」
 ファンタジーでは良くある話だが、という王様の声を聞きつつルークレイルも資料に目を通す。重要そうな項目としては、姫が少なくとも作中では森から1歩も外に出ていない事、姫や姫の住んでいた森が死者の魂を引き寄せる特性を持っている事、原作内では仮蘇生はごく当たり前だった事、仮蘇生術が時間限定の完全な肉体復元――つまり不死者ではなく生者とほぼ同様の状態になるあたりだろうか。
「ふうむ」
 さて、探し出してどう説得するか。慣習の違いというのは、悪意がないだけにやっかいな側面もある。
 とりあえず元の世界と違う事を説明出来るよう、王様は銀幕市のパンフレットや原作小説などを職員から譲ってもらった。
 一方、ルークレイルは青年に聞き取り調査を行っていた。姫の情報自体は対策課や資料以上に目新しい物はなかったが、目的はもう1つ。
「――で、だ。おまえはこうして一時的にとはいえ蘇ったわけだが、それについてはどうなんだ? 未練があったから蘇ったとか聞いたが、それは晴らせたのか?」
「それは……」
「それは?」
 興味を持ったのか、王様も話しに加わった。その点はやはり気になっていたのだ。
「最初は、嬉しかったんです。時間が限られているとはいえお別れの言葉くらいは言えるかなと思ったんですけど」
 そこでにわかに表情を曇らせる青年。2人の視線に少し顔色を戻して話は続く。
「死んだ人間がいきなり目の前に現れても、混乱するだけなんですね。安心させたかった人達を逆に怖がらせてしまいましたし。そんな事にも気付かなかった僕はどうかしてたと思うんです。だからこそ、彼女をどうにかしないと彼女自身も他の人も大変な事になるんじゃないかって」
 この青年、根はいい人らしい。話を聞いていた職員からはちらほらと尊敬の視線が飛んでいる。
 話しながら罪悪感が蘇ってきたのか、震えだした青年の肩をぽんぽんと叩いたのは王様だ。
「まあ気にするな。あんたの気持ちも分かるが、仕方なかった部分も大きいだろう。そんな状態でも姫を気遣えるなんて、大したもんだ」
 その言葉に、青年の表情にいくらか明るさが戻る。
「やってしまった事は仕方ない。それは時間があるうちに取り戻せばいい。そのためにあんたはこうして協力しているのだろう?」
「はい」
 青年が明るさを取り戻して王様は安心した。罪悪感丸出しの表情で姫に会わせて、姫を追いつめたりしたくはなかったのだ。
「そろそろ探しに行かないか? おまえも、そんなに時間はないのだろう?」
「そうですね。自分でもいまいち分からないですけど」
 話に一段落付いた所で、ルークレイルが声をかけた。情報収集も良いが、姫を見つけださない事には始まらない。
「おそらく森だろうが、念のため街も見ておくか」
「だな」
「じゃ、俺は先に行くぞ」
 そう言って先に出ていくルークレイルに後ろから王様は声をかけようとして――やっぱりやめた。
 途中で一度落ち合おうというのは、方向音痴ですぐに迷う彼には酷であろう。
 それに、おそらくルークは焦っている。それは王様も同じだった。
 なぜなら、原作の結末を知ってしまったから。


 セエレは銀幕自然公園のとある木の上で王様を待っていた。市役所に連れて行くのは酷だろうと同じギャリック海賊団の王様が気を遣った結果だ。
 数日前、間接的にだがセエレは姫と関わっている。やむを得ない理由で船の修理のための材木を自分で見に行った帰りに見てしまったのだ。姫の蘇らされた人間が、改めて死を迎える瞬間を。
 その人は、どうすればいいのか分からないまま時間を使い切ってしまっていた。そして偶然見かけたセエレに姫や自分の事を僅かにつぶやいた直後、光に包まれて次の瞬間には跡形もなく消えていたのだ。
 色んな意味で、シャレになっていなかった。
 ただでさえ対人恐怖症だというのに、声をかけてきた人物が死んだ人間だったなんて。その相手の死因が事件絡みだったため、ニュースで偶然顔を知っていたことも災いした。しかも、目の前での消滅。
 あんなの怖すぎる。だから、姫を止めないと。
 対人恐怖症を押してまで依頼を受けたのには、そんな事情があったりする。

 王様は青年と一緒に、ちょっとした荷物を持って自然公園にやってきた。
 呼ばれたセエレは木から飛び降り、直後に青年の姿を見て、慌てて王様をはさんで青年の反対側の位置まで移動した。
「え……っと……ど、だったの……?」
 王様が居るからかろうじて正気を保てているものの、青年が蘇った人間だと思うとやっぱり怖い(そうでなくとも人の時点で怖いが)。王様が居なければほぼ確実に脱兎の勢いで逃げ出している。
「説明は探しながらにさせてほしいな。出来れば少し急ぎたい」
「……え、な……わかった」
 どうして? と聞こうとは思ったものの。上手く言葉に出来ず結局はそれに従うセエレ。人型ではない王様とは普段ならまだまともに話せるのだが、やはり青年の存在が怖すぎた。

 ちなみに王様はあえてセエレに原作本を渡さなかった。あの結末では恐怖心が増すだけだろうと思ったからだ。


 清本 橋三はそんな事が起きているなんて全く知らずに森の中を散策していた。
「天誅」
「ぐはぁっ」
 そして、いつものように斬られていた。
 同じ姿の脇役な悪役が様々な時代劇に出演しているため、各時代劇出身の、特に正義側のムービースターに襲われる事が多いのだ。
 ただ、いつもと違った事が1つ。
「何をしているのですかっ」
 死神のような少女が現れたのだ。
 異様な圧力を感じさせる少女に恐れをなしたのか、橋三を斬りつけたスターはその場から逃げ出した。
 事態がいまいち飲み込めない橋三は、これまたいつものように斬られた演技を続ける事にした。
 少女――レンドア姫は戸惑っていた。
 彼女の住む森は、その特性上生きている人間は滅多に立ち入らない場所だった。ましてや目の前で刃傷沙汰なんてまず起こらない。場面を見た事はあっても、それはあくまで魂の質を判断するための情報にすぎないのだ。
 こういう場合、どうすればいいのかしら?
 彼女の役割に関する能力は死後あまり時間の経っていない、より正確には肉体からの遊離後繋がりが完全に断ち切られるまでの間の魂にしか通用しない。
 今回、魂が遊離していないので能力は使えない。実は死んでいないのだから当然だが、彼女にはそんな事は分からない。これは彼女の知識不足もあるが、やはり橋三の演技の腕に寄る所が大きいだろう。
「……いつでも術が使えるようにだけはしておきましょう」
 数分迷ったあげく、出した結論はそれだった。
「それにしてもおかしいですね。こんな事ってあるのですか?」
 死んでいるはずなのに魂が抜け出さないなんて、などと考えながらとりあえず杖を取り出したところで、橋三はむっくりと起きあがった。これも橋三にはいつもの事。だが。
「えっ? えぇっ!?」
 ちょっと、なにこれ、どうなっているの?
 そんな感じでレンドア姫、生まれて初めての大パニック。
「かっ、かかか勝手に生き返らないで下さいっ」
「……理不尽な事を申すな」
 魂の番人であるにもかかわらず、あるいはその環境故か。突然目の前で人が蘇える事には彼女も慣れてはいなかった。
「じ、じゃあ貴方は生きているのですか?」
「うむ、生きておる」
「さっきまで死んでいたじゃないですか」
「だから、死んでおらんと言うに」
「どういう事なんですか、説明して下さい」
 説明するものの、そのたびにじゃあ何故この場所になどといった感じで質問攻めにされるものだからたまらない。
 これは対策課に連れて行くべきかと、ため息をつきつつ橋三は歩き出そうとした。
「待って下さい」
 が、姫に腕を捕まれて失敗。見た目に反して力が強いと橋三は思ったが、実は補助魔法を使っている。
 さて、これは一体どうしたものだろうか。


 一方、王様より先に森に入ったルークレイルはというと。
「……ここは、どこだ?」
 王様の予想通り迷っていた。
 とはいえ、いつもの事なので特に焦ったりはしない。それに今回の目的は人捜しだからあえて行動を共にする必要もない。むしろ手分けした方が効率がいい。
 何より、原作のあの結末だ。もし原作のある登場人物が実体化していたり、そうでなくとも魔法に詳しいヴィランスが姫と接触したらまずい事になる可能性がある。彼女自身に悪意はなくとも、彼女の使う術はある術と裏表なのだから。
 急がなければと思いつつ、同時にルークレイルは自分の思考に引っかかりを覚えた。
 今の自分は、財宝ではなく人を捜している。それも自分ではなく、他人のために。
 そう考えると、思わず苦笑してしまう。自分もずいぶんと変わったものだ。一時は他人など敵か邪魔者か利用するか、さもなくば全くの無関係でしかなかったのに、今ではその他人のためにこうして行動しているのだから。
 それだけではない。今の自分が死んだなら、きっと未練が残るだろう。これも昔の自分からは考えられない事。
 昔の自分なら、ギャリック海賊団に入団する前なら、未練など抱かなかっただろう。自らを認めない世の中を呪う事はあっても。
 今は違う。まだ最高の財宝を見つけていない。いや、今の仲間達と、という言葉を付け加えるのがより適当だろうか。たとえ同じ財宝を見つけたとしても、今と昔では満足感がまるで違うだろう。
 それは、信頼という名の絆。大勢の中の1人でも特定の才能が前提でもない、存在の無条件の承認。能力などではなく、その人自身を認めるという事。
 現在の仲間達は、そういった意味ではかけがえのない財宝とも言えるだろう。もし姫に世話になるような事があれば、そして受け入れられるのであれば、真っ先に会いに行く人達なのは間違いない。別れ際には無様に取り乱す事だってあるかもしれない。
 ――本当に、今日の自分は何を考えているのか。またもや苦笑しつつ、ふと周りの気配が微妙に変わっている事にルークレイルは気付いた。
 近いな。そう直感が告げている。
 王様は、セエレは、果たして無事だろうか。安全な部類に入る依頼とはいえ、全く危険要素がないわけではない。
 早く姫を見つけだそう。自分の大切な人達のためにも。
 ルークレイルの歩みは、次第に早足となっていた。


 結果的に、ギャリック海賊団の3人はほぼ同時に姫を見つけることになった。そこはちょうど市役所でルークレイルが設定資料と山麓の地図を見比べて当たりをつけた場所だったが、先行したルークレイルが迷った一方で王様一行は正確にその場所に向かったため、タイムラグがちょうど解消されたのだ。近くまで行けば姫と橋三のやりとりが聞こえたので現場に着くのは簡単だった。
 とはいえ、ほんのちょっとだけルークレイルが早かったりしたわけで。
「おっ、見つけたか……っと、一緒にいるのは清本さんか?」
「おお、ブラック殿か」
「ああ。この前は世話になった」
「いやいや、あの程度は礼に及ばぬ。皆で協力してこその勝利だったしな」
 この2人、レヴィアタン討伐作戦で同じ部隊だったので面識がある。ついでに言えば衝撃波攻撃時に橋三達救護部隊(第2部隊内)に助けられた事もあり、ルークレイルはそのことに感謝していたりする。あまり表に出さないあたりが彼らしいが。
「それより、このおなごをどうにかしてくれぬか? どうやらムービースターらしいのだが」
「お安いご用、というよりむしろそのために来たからな」
 そのまま対策課がどうのこうのと話し出した2人の様子にぽかんとする姫。何の話かさっぱり分からないようだ。
 と、ちょうどそこへ王様一行が到着。青年を先頭に少し間を取って王様、セエレと続いているあたりに王様の配慮が見て取れる。
 事情説明中らしいルークレイルと橋三を傍目に、覚えのある青年の登場にこれまた驚いている姫にさっと薔薇の花を差し出す王様。
「ごきげんよう、麗しき姫君。俺の名は王様。以後、お見知り置きを」
「はあ」
 なんだか唖然としている姫。今日は驚きの連続である。そこまでは知らない王様も少し混乱している様子には気付いたようで、ひとまず気持ちを落ち着かせるのが先決だろうと、お菓子を差し出しつつ会話を始めた。さりげなく口説きつつ。
「俺やそこのセエレ嬢、あとそこの優男もか。俺たちは海賊なんだ。ああ、とはいってもそこらの盗賊とは違って、人殺しはしないし堅気には手を出さないってのがモットーなんだが」
「へえ、そうなんですか」
「おい、せめて名前で呼べ名前で」
「まあこのルークという男、航海士のくせして方向音痴なものだから実際に遭難しかけた事も何度かあったんだが」
「初対面の人間に人の恥さらすな。つかそうなんですかに対して遭難の話とかベタ過ぎるだろ」
 そのギャグが受けたかどうかは別として。魂の番人として生き方の話には興味があったのか、王様にルークレイルも加わっての話に姫の気分も徐々にほぐれていった。
 ちなみにセエレは、近くの木の上からその様子を見守っていた。姫に言いたい事はあったものの、人数が増えた上に姫+青年コンボ、つまり生き返らせた人+生き返った人の組み合わせは、やっぱりものすごく怖かった。
 もう1つちなみに、王様とセエレの顔を見て、無事にたどり着いた事にルークレイルは内心ほっとしていた。顔には出さなくとも仲間への思いは強いのである。その思いこそ、ルークレイルにとってギャリック海賊団との出会いがどれだけ大きな出来事だったかを示しているのかもしれない。

 ルークレイルから簡単に説明を受けた橋三は、姫ではなく青年に話しかけた。図らずとも海賊団の男性陣2人が姫の心を開いている間、待たされている青年にもちょうどよかったかもしれない。
「ブラック殿から事情は粗方聞いた」
 橋三は思ったのだ。姫の問題はもちろん解決する必要があるが、青年の問題もまた解決すべき物ではないだろうかと。
 ルークレイルや王様も青年の未練は気になっていたが、橋三の意識は少し違っていた。
 青年は、一度実家に向かっているのだ。そして、警察にお世話になった。
 この一連の流れは、おそらく青年とその関係者の双方を傷つけたであろう。
 与えられた時間が有限であるならば、その修復もまた急務だ。
 やがて失う命。それは仕方ない事だが、別れる間際にわだかまりが出来てしまうのはとても悲しい事ではないだろうか。
 だから、橋三は青年に言った。
「姫の事は、彼等に任せておけば大丈夫だろう。それより、俺と一緒におまえさんの実家に向かわぬか? このままではお互い不幸だろう」
 避けられぬ別れなら、せめて綺麗に別れたいものだろうと。
 だが、青年は動かなかった。
「お気遣いは嬉しいのですが」
 それは決して、再び実家に行くのが不安だったわけではなく。
「実家に行く時は、出来ればレンドア姫も連れて行きたくて。両親達を説明するのはおそらく市職員の方の力が必要になると思いますし、苦労をおかけするのなら姫が一緒の方がより確実かなって」
 青年なりにしっかりと考えて出した結論だった。
「一理あるが、もしそれまでに時間が来てしまったらどうする?」
「その時はその時です。考え無しに実家に向かった僕にも責任はありますし。それに、事件の真相が分かれば納得してくれると思います。そういう親ですから」
 銀幕市にずっと残っている人達ですからねと青年は笑う。
 なるほどな、と橋三は思った。おそらく生前はとても仲の良い親子だったのであろう。死してなお信頼されているというのは、ある意味親冥利に尽きるというものがあろう。
 一抹の不安がないわけではない。だが、そこまで言うならば青年の意思を尊重しよう橋三は決めた。
 きっと、大丈夫だ。なぜなら、彼等は銀幕市民なのだから。

「ところで姫君、最近変わった事はなかったかな?」
 程良くうち解けたであろうタイミングで、王様はそう切り出した。
「変わった事、ですか……」
「ああ、ちょっと気になる噂があってな。姫君ならば何かご存じではなかろうかと」
 姫が仮蘇生を行った人間が他にもいる事はセエレから聞いている。ならばその動向に違和感があったのではないかと考えたのだ。その読みは当たっていた。
「そうですね……最近、未練を解消出来ずに戻ってきてしまう方が多くて。新しい街らしいのですけど、仮蘇生の伝統を知らなかったりするのでしょうか」
 ただし、半分だけ。姫も違和感はあったものの、外の世界を知らない故にそういう地域が出来たくらいにしか思っていないようだ。
 まあでも、とっかかりとしては充分。王様は外の写真や観光パンフレットなどを取り出して銀幕市の説明をすることにした。
「姫君の言っている街とは、この街の事かな」
 王様はわかりやすく丁寧に、そして姫が聞き入れやすいように説明していった。姫も大方は理解出来たようだが、全てではなく。
「――で、だ。実はここは杵間山の麓の森で、俺たち海賊団やそこの浪人は皆ムービースターなんだ。そして姫君、貴方も俺たちと同じ、映画から実体化した1人だ」
「……はい?」
 そのあたりはさすがに理解出来なかった。まあこれは実体化したばかりスターには信じがたい話だから仕方がない。それならばと話をつなごうとした王様だったが。
「そういうわけで、この世界では仮蘇生は混乱をもたらしてしまうんだ。あの青年も少し大変な事になっているしな」
「え、……っと。止めてくださ……いっ」
 それまで様子を見ていたルークレイルと、青年が少し離れた事で頑張って近くまで来ていたセエレがそのまま話を進めてしまったものだから。
「……え、えーと……?」
 姫は話の整理が追いつかなくなってしまった。よくよく考えればルークレイルは人付き合いが不得手、セエレは対人恐怖症。説得に向いているかと考えればちょっぴり疑問符が付くのは致し方ない所か。
「あ……わ、わた……」
「大丈夫だセエレ嬢。姫君は賢い方だからな」
 なんかやってしまったかなと不安になったセエレをすかさずフォローする王様。もちろん姫へのフォローも忘れない。ついでにルークレイルはスルーだったりする。
「理解出来なくても無理はない。俺たちも最初は戸惑ったしな。とりあえず、一度外に出てみないかい? そうすれば納得してもらえると思うのだが」
「でも私、立場上森から出る事は出来なくて……」
 原作資料を見ていた王様にはこの回答は予想の範囲内だった。とはいえこのあたり、少し原作者を恨みたくなってくる。姫にとっては森で魂の番人をする事は義務であり唯一の日常なのだ。故に他の生き方などを提示しようにも、そもそも姫は今以外の生き方を知らない。つまり、理解出来ないのだ。当たり前を突き崩す事は、存外に難しい。
「まあ、そこは追々分かって頂くとして。少なくとも銀幕市の住民に仮蘇生を行うのは止めてもらえると助かるのだが。姫君の言うとおり仮蘇生の習慣がないものだから、未練をはらすどころか混乱を招いてしまうからな」
「あ、はいそれは」
 だったら、少しずつ。混乱を招く要素だけはまず排除しておく。
 少なくとも依頼に関してはこれで達成したことになるわけだが、それで終わらせるつもりは王様にはない。せっかく実体化したお嬢さんを森に閉じこめておく道理なんてないのだから。
 とはいえ、どうしたものか。あるいは姫にとっては森に住む方が幸せなのかもしれないなどと王様が悩んでいる横から、これで銀幕市では仮蘇生なんて恐ろしい事が起きなくて済むと僅かに安心したセエレが、疑問に思っていた事を姫に投げかけようとした。
「えっ……と……」
「セエレさん」
 が、それより先に落ち着きを取り戻した姫に逆に声をかけられたものだから思わずびくっとしてしまう。
 何を言われるのだろう、と思ったセエレ。だが、セエレを見つめた姫が次に取った行動は。
「ごめんなさい」
 そう言って、頭を下げる事だった。
「……え?」
 ごめんなさいって、何の事だろうと思ったけれど。
「貴方を怖がらせてしまったって、帰ってきた魂に聞いたの。これまで仮蘇生で未練を晴らしてもらうのが当たり前だったから、その習慣がない地域にすぐに対応出来なくて。知らなかったとはいえ、それで怖がらせてしまったのは確かだから。だから、ごめんなさい」
 そう言われて理解した。この前見たあのことだ。
 セエレは姫に抱いていた嫌悪感が少し和らいだのを感じた。なんて怖い事をするのだろうと思っていたけれど、その実は自分の仕事に関わる事以外の物事をあまり知らない少女なのだ。もちろん、そういう事が出来る人という恐怖感はあまり変わらないけれど、少なくとも銀幕市ではやらないと約束してもらえたし。怖いのと嫌いなのは、似ているようで少し違う。人は怖いけれど、怖い分観察力は案外あったりするのだ。
 それはそれとして。
「あ……うん。それで、あの……」
「なあに?」
 セエレが何か聞こうとするのを、優しい表情で待つ姫。さりげなく王様がセエレの手を握っているのはもう言わずもがな。
「その……仮蘇生……どう、思っているの……?」
 セエレの疑問、それは仮蘇生を行う事を姫自身はどう思っているのかだった。
 元の世界では、あるいはそれで上手くいっていたのかもしれない。でも、この世界では。銀幕市ではそう上手くいかないのではないか。実際に、セエレが見た人や今回の青年は困った事になっているわけだし。
 さっき謝ってもらえたけれども、じゃあ今はどう思っているのだろうか。
「そうね……未練を晴らして貰うための手段、のはずだったんだけれど」
 その問いに姫は、多少の自戒の念を込めて答えた。
「仮蘇生を行えば未練を晴らせると思い込んでいた部分もあったかもしれないわね。今までそれで上手くいっていたのもあるけれど、未練が晴らせない魂が帰ってきた時に気付くべきだったって、今は思ってる」
 そう答えて、そして貴方達のおかげで気付く事が出来ましたと、姫は改めてその場の全員に頭を下げた。ありがとう、そして、ごめんなさいと。
 セエレが何か言おうと戸惑っているのを感じ取りつつ、王様はそう慌てる事もないかなと考え始めていた。少なくとも姫が騒ぎを起こす事はもうないだろう。だったら、少しずつ色んな事を知ってもらえばいい。そして、いつか状況を理解できたときには。その時には、街を色々案内しようと。

 これにて一件落着と思っている2人と違い、ルークレイルにはもう1つやっておきたい事があった。それは橋三のように青年の問題ともまた違う。
 それは、原作結末に関わる事。ルークレイルと王様、それに青年は知っているものの、王様達がおそらく姫が仮蘇生をしなくなれば大丈夫と思っているだろうのに対して、ルークレイルは学術的方面からの危険があると考えていた。魔法そのものに詳しいわけではないものの、論理的にその可能性があるのならばやはり抑えておくべきではないかと。
「あ、そうそう。姫さんに伝えておかないといけないことが1つあった」
 だから、ルークレイルは悪い噂としてそれを伝えておく。他の面々が謎めいた表情をしているのも気にせずに。
「ちょっと小耳に挟んだんだが、お前の魔法を狙っている連中がいるらしくてな」
「私の魔法を?」
 その話に、ああと納得したのは王様と青年。その危険もあったかと、ここはルークレイルに任せる事にする。
「ああ。おまえのその、仮蘇生術だったか。悪用しようと考える連中がいてな」
「悪用、ですか」
 ほぼおうむ返しに答える姫。悪用と言われても、世間知らずの姫の事。そのまま悪い事に使われるくらいしか思っていないだろう。セエレや橋三も同じように考えているかもしれない。が。
「少し考えれば分かると思うが、その魔法、存在維持力と復元力の関係を逆転させたらどうなる?」
「……あ!」
 そう言われて、姫はすぐに気付いたようだ。そうなった場合の危険性に。 
 仮蘇生術は、存在維持時間を限定されるかわりに肉体は完全に復元される。じゃあ、その逆はどうなるか。
「そういうわけだ。だからなるべく人前で術を使ったり他人に術の事を教えたりしないでくれると助かるな」
「分かりました。そうなってしまったら大変ですものね」
 本当なら、原作の悪役や他のヴィランスに利用されたりしないか常に様子を見ておきたい所だが、さすがにそこまでは荷が重い。まあ、そうなったとしてその責はヴィランス側にあるわけだし、今出来る事はこんなところだろう。

「皆様にも悪かったとお伝え下さい」
 その言葉を背に、一同は姫の元を後にした。王様はまた来る気が満々らしく「今度は森林デートとでも洒落込もうではないか」などと言ったりしていたが。
「残念だったな、姫を連れ出せなくて」
「仕方ないですよ。無理に連れ出すわけにも行きませんから」
 橋三の言葉に、そう答える青年。
「ところで、これからどうするんだ?」
 ルークレイルが、皆にこの後の予定を聞いた。
「俺は青年を実家に連れて行こうと思う。途中で市役所に寄る事になるとは思うが」
 橋三は、青年の実家に行くらしい。
「俺は先に船に戻る。セエレ嬢を街中で1人にするわけにもいかないしな」
 セエレも頷いている事から、2人は先に船に戻るらしい。
「じゃあ、俺は市役所まで清本さんと一緒に行くよ」
「ちゃんと報酬貰ってこいよ」
「当然だ」
「あんたも、後悔はないようにな」
「ありがとうございます」
 そう青年に声をかけて、じゃあなと森から出たあたりで王様はセエレを連れて先に帰っていった。
「では俺達も」
「そうだな」
 そしてルークレイルと橋三、青年の3人は市役所に向かったのだが。
「……あれ? ルークレイルさんは?」
 やっぱり、いつの間にかルークレイルははぐれていた。

 結局、ルークレイルが市役所に着いたのは橋三達が市役所に立ち寄ってから数時間後の事だった。
 まあ、その理由は迷ったからだけではなかったのだが。


「えっと……さっきのルークの質問って、何だったの?」
 船に戻ったセエレは、王様に質問していた。あの質問の意味が分からなかったのだ。
「ああ、それはだな――」
 そう言って王様は説明を始めた。ルークレイルの言っていた事、そして原作の事を。
 ルークレイルの問いかけを実際に行った場合。仮蘇生術の存在維持力と復元力を逆転させると、不完全な復元と無限に近い長時間の存在維持力を与える術になるらしい。それが生み出す物は、リビングデッド――つまり、不死者。
 「月と樹と魔法使い」の外伝シリーズ。それは本編の様々な設定の起源を書いた、いわば物語形式の設定資料集だったのだ。そして姫の出自「死出の扉」は、いわゆる死霊繰術の起源を書いた話。
「――俺があの時急ぎたいと言ったのは、原作の悪役や魔法に詳しいヴィランスが姫と接触して原作と同じ結末を迎えるのを避けたかったからというわけだ」
「そう……」
 姫の行動は、原作でも最後に破綻していた。死霊繰術を生み出すのに利用され、そして捨てられたのだから。今回の依頼は、結果的に姫自身の救済にもなっていたわけだ。
 セエレは、そのあたりはさして気にしなかった。が、もしそうなった場合。人型の存在が無差別に次々蘇る事になったかもしれないと考えると、やはりこれで良かったのだろう。その手の能力を持つヴィランスが居たかどうかはよく覚えていないが、増えるとなるとたまらない。
「まあ、難しい事はともかく。あのお嬢さんがこっちの世界で幸せに暮らせれば俺はそれでいいわけよ」
 ちょっぴり難しい顔になったセエレを見て、そんな軽口を叩く王様。いや、案外本音でもあるが。その先程までのシリアスとの落差に思わず目を細めて笑ってしまうセエレであった。


 そして、青年の実家の前。
 橋三と青年は、先に事情説明に入って行った職員に呼ばれるのを待っていた。
 姫の話によれば、彼に残された時間は数時間もないそうだ。だが、最後の別れを告げるにはむしろちょうど良いくらいだろう。
「そういえば、清本さんはどうしてわざわざ?」
「うむ、そうだな……」
 ふと、青年にそう問いかけられ。
「俺達ムービースターは、いずれ魔法が解ければ無に帰る存在だ。おまえさんにも似たようなものを感じてな」
 橋三は笑いながらそれに答えた。
「泡沫の夢とでも言おうか。だからこそ、今この時を悔いなく生き抜いて欲しくてな」
 その笑顔は、決して寂しげなものではなく。いっそさわやかと言えるくらいのもので。
 だから、青年も。
「そうですね」
 そう、笑顔で答えたのだった。
 やがて、話が付いたのか職員が家から出てきて。
「ご両親は納得してくださいました。さあ、行きましょう」
「はい。橋三さん、ありがとうございました」
「ああ」
 呼ばれた青年は、橋三に礼を告げて家に入ろうとした。
「ちょっと、待ってくれ」
 と、そこに駆けつけたのはルークレイル。実は市役所に行こうとして迷った途中、青年に渡す物があった事を思い出し、財宝探しの要領で勘を働かせた結果何とかギリギリ間に合ったのだ。
「これを持っていけ」
 そう言って、ルークレイルは青年にミニボトルを手渡す。
「これは?」
「まあ、何だ。旅立ちの記念というか、そんな感じだな」
「……ありがとうございます」
 一瞬、死に行く自分にと返そうとした青年だったが、それはそれで失礼と思い直し素直に受け取る事にした。
「では、今度こそ行きましょう」
「そうですね。ルークレイルさんも、ありがとうございました」
 そして今度こそ家に入っていく2人。
「そういえば、姫はこれからどうなるんだ?」
 2人を見送った後、ふと思い出したかのようにルークレイルは尋ねた。
「ああ。それなら市の方が面倒を見る事になったそうだ。市役所といつでも連絡出来るようにして、あとは彼女の能力を活かしてお通夜に伝言とか出来ないかと考えているとかいないとか」
 まあ、それもまた銀幕市らしいなと言ったのはどちらだったか。
「それでは、そろそろ失礼する」
 席を外して出てきた職員に挨拶し、橋三は黙って家路についた。別れの一言くらいと思ったルークレイルもその背中に声をかけるのを止めた。彼は彼なりに、思う所が色々とあるのだろう。
「じゃあ、私達も行きましょうか」
「……は?」
 職員にそう声をかけられ、思わず間抜けな声を出してしまうルークレイル。
「だって、まだ市役所に行っていないのでしょう?」
「……まあ、そうだが」
 その通りだったが、こう簡単に見抜かれても面白くない。だがまあ仕方ないかと、ルークレイルも市役所に向かうのだった。
 背後にかすかに、魂が登っていく光を感じながら。

クリエイターコメントまずはご参加下さった皆様、ありがとうございました。
不慣れもあり、時間をほぼめいっぱい使ってしまったので
首を長くしすぎて痛めてしまった方など居ないか
少し不安だったりもしますが。いえ、不安なのは本当ですよ?
そしていきなり長作になってしまいました。
ワード校正かけた時に12000文字越えって、私……。

初シナリオなもので、OP提出時にはどうなるかドキドキでしたが
締切後に素敵プレイングの数々を目にした時の感動と言ったらもう!
うっかり後半でOPから全く想像出来ないシナリオ展開にまで
行きそうになったりもしましたが
さすがにそこは抑えました。危ない危ない。
でも勿体ないのでシナリオ候補にストックしておきましたので、
いずれまた姫に関するシナリオを出すかもしれません。
私自身の力不足や展開の都合上、
プレイングを全て生かし切れたかと問われると悩む所ですが、
楽しんでいただけたならば幸いです。
ご参加下さった皆様、お読み下さった皆様、
共に今後ともよろしくお願いいたします。
それでは、今回はこれにて失礼します。
公開日時2008-08-29(金) 22:50
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